我が国の国際競争力の強化に関する基本的方向の提言を中心の一人としてまとめる
我が国の国際競争力の強化に関する基本的方向
―「強い日本」を目指す
平成19年6月
国際競争力調査会
国際競争力調査会においては、平成17年7月に「我が国の国際競争力強化に向けた提言」をとりまとめた。本提言においては、国際競争力の確保の観点から、イノベーションの創出が重要であるとされており、本提言に基づき「研究開発」「人材・教育」「競争力を支えるインフラの抜本的強化」など様々な取り組みが進められている。その結果もあって、経済成長は着実に持続している。
その後、日本を取り巻く環境、とりわけ企業を取り巻く環境は大きく変化してきている。新しいプレイヤー(ハゲタカファンドなど)や形式(敵対的TOB)によるM&Aが増加し、関連する法令も変わった。我々が志向してきた国際化は大きく進展したといえる。
他方、資本の移動は本来自由であるべきだが、これらの変化を踏まえつつ、改めて「国際競争力の強化」を考えてみれば、守るべきものはしっかり守り、攻めるべきものは攻めるという「国益の確保」という観点が極めて重要であるとの認識に至った。また、企業等の経済主体は、従業員やその家族の生活を支え、地域社会へ貢献するなどの社会的価値があり、その価値にふさわしい法体系が必要である。
こうした観点から国益を守る手段としては、例えば、諸外国においても、米国におけるエクソン・フロリオ条項やEUのREACH規制などグローバル化の流れの中で、それぞれの事情に応じ、様々な措置が執られているところでもある。
我が国においても、国際競争力の確保に関し、「公正」「オープン」「国益」、さらには日本の「評判」(ブランド)を高めるという大原則の下、取り組みを進めていく必要がある。
従って、17年7月にとりまとめた提言を今後とも着実に実行し、その成果を検証するとともに、下記に掲げた新たな項目について議論を深め、全体としてわが国の国際競争力強化に向けたロードマップを描いていくことが必要である。
なお、国際競争力強化に関しては、関係省庁も多いことから、当調査会が引き続き、大きな方向性や個別の課題についての議論を整理していく必要がある。
○外為法に基づく対内投資規制の見直し
公正かつオープンな投資環境を整備し、海外からの投資を積極的に促進することは、少子高齢化に直面する我が国にとって極めて重要である。他方、自由な投資活動の結果として、我が国の国益としての安全が阻害されることがあってはならず、早急に所要の制度整備を行う必要がある。
我が国は、外為法に基づき、国の安全等を目的として投資規制を行っているが、本規制は平成3年の外為法改正以降既に16年間見直しを行っておらず、最近の投資活動の活発化や安全保障環境の変化に十分対応していない。
このため、安全保障上重要な技術が海外に流出することを防止する観点から、輸出管理の対象となる軍事転用の蓋然性が大きい先端素材や工作機械、電子部品等の製造業を届出対象に追加するなど、今夏までに政省令以下の改正を行う。
加えて、規制見直し後の運用状況を注視し、具体的な弊害が更に生じることがあれば、先進諸国の規制動向も参考としつつ、現状復帰命令の導入等のエンフォースメント手段の強化や、投資後に安全保障上の問題が生じた場合に行政庁が事後的に介入する制度の導入等の必要性について、検討する。
また、現状の外為法は、所管省庁別の縦割りによる体制が前提となっており、国全体の「国益」をチェックする柔軟性に欠けている。そのため、政治のリーダーシップの下、省庁横断的かつ専門的な従来の外為法に捉われない法制度(安全保障の観点からは米国のエクソン・フロリオ条項のようなもの)や判断体制作りも検討する。
○公正な企業買収・防衛ルールの整備
事業の選択と集中による国際的な競争力の確保を可能とし、同時に公正な企業買収・防衛を実現するため、累次の商法改正、会社法、金融商品取引法の制定、買収防衛策に関する指針の策定などが行われてきた。
今後は、企業価値の一層の向上を図る観点から、これらの運用状況をレビューするなど、不断の検討を行い、企業買収及び防衛に関する公正なルールの整備を検討する。
その際、敵対的TOBの実態や判例の動向、海外における企業買収・防衛に関する政策の実情をも踏まえる必要がある。たとえば、米国における買収案件の際の第三者委員会のあり方や欧州の全部買い付け義務などが検討課題の例としてあがった。
○不正な資本取引やその他の金融取引の取り締まり強化
国際的な競争力確保のためには、市場内外での取引が公平かつ適正に行われる必要がある。現在は、一部の企業買収などに関して不公正な情報入手や不正な手段が行われていることがある。したがって、インサイダーや利益相反などの不正取引について徹底的に取締りを強化するとともに、金融庁や証券等監視委員会の体制強化、および処理案件の報告の透明化も検討する。
○司法の強化
現在の司法は、わが国の国際力強化のためには、裁判所も弁護士等の民間の担い手もまだまだ不足している。裁判所の意識改革も含めて強化が必要である。また、国際司法紛争は、裁判所よりもADRで解決されることも多いことから、ADRの強化を引き続き行っていく必要がある。
また、法制度の面でも、知財については引き続き保護を強化していくとともに、海外においても知財や独禁法などの経済法はアジアを中心にわが国が支援を行っていくことも重要である。
○独占禁止法の適正な運用
国際市場で競争する企業の組織再編が柔軟かつ迅速に実現できるように、平成19年3月に改訂された独占禁止法における企業結合ガイドラインに基づき、今後、透明かつ適切な審査を行う。
また、独占禁止法の運用において、欧米企業をはじめとした外国企業と日本企業との日本市場におけるイコールフッティングを図る。
さらに、欧米を中心とした諸外国の独占禁止法制度や運用による「国益保護」の戦略について検討する。
○情報公開の重要性
わが国の市場を一方で国際的に信頼あるものとして高めて対内直投を増やし、他方で守るべきものは守るというバランスを取るためには、適切な情報公開が重要である。
特に問題となっているファンドについては、ファンドの形態や性質についての理解を深めることを前提に、適切な情報公開のあり方について検討すべきである。
○技術流出防止
わが国産業にとっては技術やノウハウなどの情報が極めて重要であるにもかかわらず、個人的流出(退職後の守秘義務や盗出など)については米国などと比較してさらに強化すべきとの意見がある。知財についても引き続き適切な保護を強化すべきである。
さらに、資本獲得による会社ごとの買収に伴う技術等の情報流出という事態までは防ぎきれない状況にある。
上記のようにエクソン・フロリオ的制度の創設のほか、各種罰則強化も含めた総合的な対策を検討すべきである。
○国際競争力強化のための税制改革
国際競争力強化のためには、海外競合企業とのイコールフッティング確保のための法人実効税率の見直し、競争力の中核をなす研究開発投資やIT投資を促進するための税制の充実・強化を行う必要がある。ただし、法人実効税率見直しにあたっては、社会保障負担についても、企業および国民の負担の程度と、適切な社会保障給付とのバランスを考慮して検討していく必要がある。
○環境・品質・安全などの新たな指標作成によるブランド価値向上
わが国が得意とする環境・品質・安全などの新たな指標作成や、規制作り(たとえばEUのGAPやREACH規制)を検討すべきである。
○国際競争力のためのインフラ整備
語学力の強化をはじめとして、渉外弁護士なども含めた関係する人材育成、雇用ルール、社会資本整備、情報インフラの整備などの努力を引き続き継続する。
○金融システム
わが国の国際競争力強化のためには、金融システムの抜本的強化が不可欠である。特に国際的ネットワークにおいては海外の金融機関に大幅に遅れているため、政府としてできる限りの支援を検討すべきである。
また、政策投資分野においては、銀行ではない比較的自由な主体で活動する存在が必要である。
○地方の国際競争力強化
国全体の国際競争力強化のためには、地方の国際競争力強化が不可欠であり、そのためには、各地方の地場産業、農業、観光事業等の付加価値を高め、アジア各国の購買力の拡大に対応する必要がある。また、アジアの大都市とわが国の地方都市とのアクセスを高めるために、国際間の航空路線の拡充等の国際間の移動・輸送インフラの整備が必要である。地方の国際競争力強化のために、道州制の導入についても、更に検討を進めるべきである。
○中小企業の国際競争力強化
わが国の経済を支えているのは、全体の90%を超え、雇用人数においても約70%を抱えていると言われている中小企業である。中小企業は国際競争力が必ずしも強くない面も見られることから、人材育成や政府支援も含めて、強化をしていくべきである。
○「人」を大切にする
わが国の経済を支えているのは究極的には「人」であり、担い手としても、消費者としても、「人」を大切にする視点が必要である。M&Aなどにおいても、あまりに金銭至上主義的な切り売りなどによって雇用や地域社会に悪影響を及ぼすことを看過してはならない。
こうした金銭至上主義的な短期的な利ざやを狙った切り売りなどに対しては、国家として防御策を検討すべきである。
○労働力
わが国は世界でも最も早いペースで少子高齢化の時代を迎えており、外国人労働者の受け入れも含めた労働力に関する長期的な戦略が必要である。
○農業
わが国の農業は、健康に対する安全性や品質において世界の中でも最高水準にある。輸出を飛躍的に発展させることも含めて、農業の国際競争力強化については、国家として後押しをすべきである。
○流通システム
バブル崩壊後のデフレ進行の中で、流通システムが大きく崩れ、ダンピング的な安売りや、それに伴う不当な買い叩きが流通システムの中で多く発生している。このような不正な状況は最終的には市場を歪曲し、薄利多売競争の中で個々の企業が疲弊し、結果的に国際競争力を弱める可能性がある。したがって、独占禁止法の適正な運用とともに、他の規制や立法措置についても検討すべきである。
○貿易救済措置
外国の不当に安い製品の輸入などに対するアンチダンピングや相殺関税といった貿易救済措置のあり方について、現在の体制では迅速性や柔軟性、あるいは専門性に欠ける面がある。米国のITCに見習った新しい組織形成も含めて、貿易救済措置適用の体制を強化すべきである。
以上
(完成版)
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